2010年5月9日日曜日

02 : 角砂糖


その夜の光はとても美しく そして正確な立方体だった。

昼間の日から切り抜かれたそれが 月からゆっくりと飛来する間
僕らの住む町はひどく安心感のない ひどく研ぎ澄まされた光に
包まれることになった。

集合団地の側面に敷き詰められた窓ガラスは 嫌な音を立てながら削り取られてゆき
青みのかかった暗闇で 信号機だけが弱々しい点滅をくりかえす

誰も何もが息もせずにただその光の着水だけをじっと待っていた。

三度の長く重い瞬きの間に
枝から一枚の葉が生まれ、育ち、枯れていくような
一切を押し殺した静寂を経て

その立方体は八つのうちの一つの頂点から ゆっくりと湖面に溶け出してゆく

音はなく、湖面にはただ幾重もの円が正確な中心を保ったまま 生まれてはそっと消えていく

僕はそれを本当に美しいと思ったし
今となってはその立方体が完全に溶けきってしまうのが少し心惜しかった。


空が、町が、呼吸を取り戻す

青く染まった世界に 静かな朝が来る。


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