2010年5月9日日曜日

03:集合団地



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やたらとぐらぐら揺れる箱を降りて、長いコンクリートの廊下を2回右に曲がったところに部屋がある。
割り当てられたにしては気に入っている、奥行きのある長方形の角部屋は、
ガラス製のローテーブルとこぢんまりとした乳白色のソファ、
ベランダにある誰かが残していった雨ざらしのアロエの鉢、
そんなものが見渡せる小さな部屋だ。
それらに洗面台とユニットバス、玄関ドアと僕を合わせると、結構おさまりのいい状態になる。


僕は丁寧に靴を脱いで上がり、ちょうど2回の呼吸をおいてソファへ腰かける。
カーテンのないただひとつの大きな窓には、夜明けの空にあらわれる、あのふわふわとしたクラゲがいくらかただよっていて、
正面の壁に透明なからだのやさしげな色を反射させている。





物音がしてクラゲたちがさざめくので、僕は窓の外に備え付けられた箱の扉を開き、
金属製の円筒に顔を近づけ、ボブディランを2フレーズ歌った。
それから円筒のふたをしっかり閉め、もう一度扉の中へおさめて、レバーを引く。
それは静かに下の住人へと届く と僕は思っている。


なじみのクラゲを何匹か部屋に招いて、ユニットバスに水を張ってやる。
彼らが音楽を奏ではじめたら、僕はそのメロディを口ずさんでみて、口に合えば、明日使う。
合わなければ、ひととおりの挨拶を交わして、彼らは帰っていく。
上も下も右も左も たぶん同じような部屋があって、
奥行きのある空間があって、
おそらく同じような歌が生まれている 

と僕は思っている。

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riri*

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